「ずっとこのままだったらどうしよう」と思う夜に
「明日もまた同じ朝が来て、同じ景色の中で、同じように仕事をして、また疲れて帰るんだろうな……」
会社帰り、電車が遅延してごった返すホームに立ち尽くしながら、ふとそんな考えがよぎった。
スマホを見れば、楽しそうな誰かのストーリー。
家に着けば、冷蔵庫の中は空っぽで、コンビニ弁当を黙々と食べる。
忙しくて、余裕がなくて、それでも「何かを変える」ほどの勇気も気力もなくて。
気づけば、“このままの自分”にうっすらと絶望していた。
そんな時、ふと手に取った一冊の本のなかに、「無常(むじょう)」という言葉があった。
「すべては変わり続けている。今の状態は、永遠には続かない。」
当たり前のようでいて、どこか安心するその一文が、私の中で静かに灯った。
結論:モヤモヤの正体は「変わらないという思い込み」
この記事で伝えたいのは、「無常」という仏教の考え方が、
“今のしんどさ”や“不安定な自分”にこそ、そっと効いてくるということ。
「この状況が一生続く」と思ってしまうから苦しい。
でも、世界は常に変わっているし、私たちも絶えず変わっている。
それに気づくだけで、少し気持ちが軽くなることもある。
では実際に、どうすれば「無常」を日常に取り入れられるのか。
自分の体験をふまえて、ゆっくり綴っていきたい。
あのときの私は、「変わらなさ」に閉じ込められていた
私が一番「無常」に救われたのは、20代後半のある春だった。
当時、調剤薬局での仕事にも慣れ、表向きは順調そのものだった。
けれど、心の奥ではずっと違和感を抱えていた。
「これが一生の仕事なのかな……」
「なんとなく働いて、なんとなく日々が流れてるだけじゃないか?」
でも、辞める勇気もなかった。
職場の人間関係は悪くないし、収入も安定している。
わざわざ波風を立てる理由なんてない。
それでも、毎朝の通勤電車に乗るたび、私はどこか息苦しくなっていた。
ある日、ふとしたきっかけで地元の図書館に立ち寄り、
仏教の入門書をパラパラとめくっていた時だった。
目に止まったのが、「無常」という言葉。
「すべての現象は絶えず変化している。喜びも、苦しみも、春も冬も、すべては流れていく。」
その一文を見た瞬間、なぜだか涙が出そうになった。
「今の気持ちも、永遠じゃないのか」
「このしんどさも、ちゃんと過ぎ去るんだ」──そう思えたのだ。
それまでの私は、「このままの自分」でずっといなければならない、
そんな“思い込みの檻”のなかにいたのかもしれない。
「無常」とは、変わることが前提の世界観
「無常(むじょう)」は、仏教における三つの基本的な真理(※三法印)のひとつです。
文字通りの意味は、「常ではない」=「すべては変わる」。
私たちが見ているこの世界、経験している感情、人間関係、立場、季節……
そのすべては、どれひとつとして“固定”されたものではない。
仏教書のなかには、こんな一文もあります。
「春の桜も、冬の寒さも、すべては移ろう。執着することにこそ苦しみは生まれる。」
この視点を持つと、嬉しいことに執着しすぎなくなる一方で、
苦しいことにも「これはずっとは続かない」と思えるようになる。
たとえば、仕事でミスして落ち込んだとき。
あるいは、誰かに冷たくされて、心がざわついたとき。
「この感情にずっと支配されることはない」と考えるだけで、少しだけ深呼吸できる気がする。
「無常」は、ただの諦めではない。
むしろ、“今しかないこの瞬間を大切にするための視点”だと、私は思っている。
今日からできる「無常ワーク」3選
「無常」をただの言葉で終わらせず、
日常にそっとしみ込ませるために、私がやっている小さな実践を3つご紹介します。
1. 気分が沈んだら、「これも変わる」と唱える
しんどい気持ちになったとき、心のなかでつぶやいてみてください。
「この感情も、やがて過ぎ去る。」
それだけで、今の気持ちに“距離”を取ることができます。
感情のなかに沈みこむのではなく、少し外側から眺めてみる感覚です。
2. 毎朝、「昨日と今日の違い」を1つ探す
通勤路の桜の開き具合、天気の変化、着ている服の気分。
どんなに小さくても構いません。
「ああ、今日も世界はちゃんと変わってる」
そう気づくことで、「変化は確実に起きている」という感覚が深まります。
3. 「嫌なことメモ」を1週間後に見返す
スマホやノートに、今日モヤモヤしたことを一言だけ記録しておきます。
そして、ちょうど1週間後に見返す。
驚くほど、その悩みが“どうでもよくなっている”ことに気づきます。
「あのとき、あんなに悩んだのに、今はもう大丈夫なんだ」
それこそが、「無常」の実感です。
最後に:完璧に生きなくていい。ただ「変わっていく」だけでいい
人生は、なにもかもをうまくこなす場所じゃない。
ただ、少しずつ変わっていくことを受け入れる場所。
「無常」は、変化を恐れる私たちに、
「大丈夫、これは永遠じゃないよ」とそっと教えてくれる言葉です。
苦しみも、不安も、喜びも、停滞も。
それらすべてが、ずっとは続かない。
だからこそ、焦らなくていい。完璧じゃなくていい。
今日は今日の、自分なりの「一歩」でじゅうぶんです。
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