見つからなくてもいい——「自分探し」の哲学【実存】

見つからなくていい。自分探しの哲学【実存】 哲学

カフェの窓辺で、ふと感じた迷子感

日曜の午後、カフェの窓際。
アイスコーヒーを片手に、目の前のノートをぼんやり見つめる。
「自分が本当にやりたいことって、なんだっけ?」

そう思いながら、手帳にペンを走らせてみるけれど、どの言葉もどこか他人のもののようでしっくりこない。
SNSでは「自分らしさを見つけた!」と笑顔で語る投稿が並び、自己啓発本には「本当の自分に出会う方法」といった言葉があふれている。

それなのに、自分はまだ何者にもなれていない気がして、少し焦る。

本を読んでも、趣味を試しても、「これが自分だ」と言い切れるものが見つからない。
自分の“本音”がわからなくて、思考がぐるぐるする日。そんなとき、私はこう問い直してみた。

「そもそも、“本当の自分”って、どこにいるんだろう?」

結論:モヤモヤの正体は「“自分”は見つけるものだという思い込み」

「自分探し」という言葉があるから、まるで“自分”というものが、どこかに確固たる形で存在していて、それを探し出す旅のように感じてしまう。

でも、もしかしたら——
そもそも“本当の自分”なんて、最初からどこにもいないのかもしれない。

そう思ったとき、私はある哲学の考え方に出会った。

「自分は“なる”もの」——実存(エグジステンス)という考え方

哲学者キルケゴールやサルトルは、「実存(エグジステンス)」という概念を提唱しました。

それは簡単に言うと、

人は“あらかじめ決まった存在”ではなく、“自分で選び、行動する中でしか自分になれない”
——という考え方です。

たとえば、木は種の段階から「将来はリンゴの木になる」と決まっています。
でも、人間にはそれがない。医者にもなれるし、画家にもなれるし、コンビニ店員にもなれる。

「何者になるか」は、自分で決める。
決めて、選んで、行動して、失敗して、また選んで…その繰り返しの中で、ようやく“自分”になっていく。

つまり、「自分とは何か」ではなく、「自分はどう“なる”のか」が大事なんだと、哲学は教えてくれます。

30歳、初夏。節目のざわめきの中で

思えば、私もずっと“自分探し”?というか今の自分が本当になりたい自分なのか?と感じていました。
その一方で自分の職業、薬剤師という肩書きが自分を語ってくれると思っていたし、趣味や特技が“本当の自分”だと信じていたんです。

でも30歳を迎えた初夏、少し違和感が湧いてきたんです。

「本当にこのままでいいのか?」
「この働き方、この人間関係、この価値観…、全部“選びきってない”気がする」

そんなざわつきを抱えながらも、ある日ふと本屋で手に取った哲学書で、サルトルの言葉に出会いました。

「人間は、自らが作り上げたものに他ならない」

ああ、そうか。
“自分”は、見つけるものじゃなくて、“作っていく”ものなんだ。
この言葉に触れたとき、ふわっと肩の力が抜けた気がしました。

今日からできる「自分づくり」ワーク3選

「じゃあ、どうやって“自分になる”の?」
そんなふうに思ったあなたに、今日から試せる3つのワークを紹介します。

① 「今の自分にしかできない選択」を1つ書き出す

例えば、「今日は緑茶を選んだ」「この服を着てきた」「このカフェを選んだ」。
どんなに小さなことでもOKです。
“選ぶ”という行為には、すでに“自分らしさ”が表れているからです。

選択の積み重ねがあなたを形作ります。
「自分なんてまだわからない」と思っていても、あなたは今日も、ちゃんと“選んで”生きている。

それだけで、立派な「自分づくり」なんです。

② 「〜な自分もアリかも」リストを作る

完璧じゃなくていい。ブレてもいい。
大事なのは、いろんな“自分の可能性”を許すこと。

たとえば——
・優柔不断な自分もアリかも
・SNSを見て落ち込む自分もアリかも
・真面目すぎる自分もアリかも

“本当の自分”は一枚岩じゃない。

人間多面的であり、日々変化していくものでもあります。それが普通です。
むしろ、いくつもの“仮の自分”を生きてみて、その中からしっくりくる形を育てていけばいいんです。

③ “自分探し”を“自分づくり”に言い換えてみる

言葉を変えると、見える世界も変わります。

「自分を探す」と言うと、まだ見つかっていない未完成さにフォーカスしてしまう。
でも「自分をつくる」と言い換えれば、今この瞬間の選択がすでに“意味ある行為”になります。

見つける旅より、つくっていく日々。
この視点のシフトが、あなたの心を少し軽くしてくれるはずです。

まとめ:未完成でいい。“選びながら生きている”あなたへ

「本当の自分」が見つからなくて、焦る日があるかもしれません。
まわりが輝いて見えて、自分だけが迷子に感じることもあるでしょう。

でも、思い出してください。
あなたは、今日も“自分で選んで”生きている。

それこそが、“実存する”ということ。
誰かに定義されるんじゃなくて、自分で決めて、自分で進んでいく。
その姿こそ、あなただけの“本当の自分”です。

だから——

見つからなくても、いい。
だってあなたは、“なり続けている”のだから。

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